SaaS事業の成長を加速させるKPI設計とは?SaaS開発者が解説

「予算管理SaaS開発者が徹底解説!事業特有のKPIが基礎から応用までまるわかり!SaaS事業の成長を加速させるKPI設計と予算管理」のセミナーレポートです。SaaSビジネスにおけるKPI設計のポイントについて解説しております。

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SaaSビジネスにおけるKPI設計のポイント

SaaSビジネスにおけるKPI設計のポイントについて、大きく3つのポイントに分けて解説します。
また、KPI設計のポイントについて解説した後、ポイントを踏まえた実践のケースについても解説します。

【ポイント】

  • シンプルさを追及する
  • 財務会計と管理会計を融合させる
  • 組織に応じた設計

【ケース】

  • 0からKPIを設計する手順
  • 成功するKPI管理の事例
  • フィードフォワードコントロール

KPIはシンプルを追及する

KPI設計において大事なことは「シンプルさを追求すること」です。

シンプルさを追求する例として、SaaS事業においてザ・モデル型に則ったKPIを設定している企業も多いと思いますが、これはシンプルさを追求していると言えます。シンプルなKPI=教科書通りのKPIとも言い換えられます。

なぜシンプルなKPIが重要であるか

シンプルなKPIが重要である理由は、問題に直面した際、ヒントとなる情報へのアクセスの幅が格段に広がるからです。

例えば、一般的なKPIである「チャーンレート(解約率)」を考える場合、解約率を改善するために何をすべきか、解約率が悪化した場合にどうすれば改善できるか、調べればその解決策のヒントになるものはたくさん出てきます。このように、教科書通りのシンプルなKPIを設定していれば、過去の事例や先人たちからヒントを得ることができます。

SaaS事業は歴史が浅いものの、海外国内問わず時代の洗礼を受け、スタンダードなKPIが存在していると思います。まずは教科書通りのKPIから始めて、その上で自社に合ったKPIを考えることが重要です。

誰が見ても理解できるKPI

また、誰が見ても理解できるKPIを設計することも重要です。誰が見ても理解できるKPIとは、具体的には、数量×単価のようなシンプルなものです。どの業界においても、売上をKPI単位に分解する際、最上位にある数量単価を分解することから始めることが重要です。

よくある事例として、サービスが複雑な場合、独自の複雑なKPIを設計することがあります。しかし、複雑なKPIは売上との因果関係が分かりづらくなる問題があります。KPI達成のために努力しても、売上との因果関係が分かりづらいと、KPIを意識しなくなることがあります。メンバーが理解できるレベルから始めることが重要です。

KPIの達成は、会社やチームのKPIに繋がる必要があります。

個人のKPI達成がチームのKPI達成に繋がり、チームのKPI達成が事業部のKPI達成に繋がるロジックツリーをシンプルに作ることが重要です。個人の頑張りが会社の成果に繋がらないKPI設計になっていないかに注意し、KPIの繋がりには特に意識を向けることが大切です。

財務会計と管理会計を融合させる

財務会計と管理会計を融合させることは、KPI設計において非常に重要なポイントです。

1.KPIの積み上げ結果を財務会計の勘定科目に紐付ける
2.KPIの目標と実績が比較できるな状態を作る
3.先行指標か遅行指標かを確認する

1.KPIの積み上げ結果を財務会計の勘定科目に紐付ける

例えば、KPIを達成しているにも関わらず、売上単位で見た場合に予算に届いていないというケースがよくあります。これは、KPIを積み上げた結果が会計の勘定科目に紐付いていないからです。

KPIの積み上げ結果が予算に紐付いている場合、「KPI達成=予算達成」といえます。つまり、財務会計と管理会計が一致している状態です。財管が一致していない場合、現場でKPIを達成していても、経営陣が見ている勘定科目レベルでの数字が予算に達成していない、というギャップが生じます。

KPIの改善が売上の改善に繋がらない設計の場合、KPIを達成しても売上は改善しない可能性があります。 KPI を改善することが売上の改善に繋がるような設計をしっかり作っていくことが重要です。

2.KPI目標と実績が比較できる状態を作る

次に、KPI目標と実績を数字で比較できる状態を作ることが重要です。比較が重要な理由は、改善のアクションを打ちやすくするためです。

KPIを商談数100件とした場合、実績が80件なのか110件なのか、予算と実績を比較して確認できる状態にしておく必要があります。また、時間軸による比較も重要です。例えば、前月や前年と比較してどうだったかを振り返ることが重要です。

3.先行指標か遅行指標かを確認する

最後に、そのKPI設定が先行指標か遅行指標(KGI)かを確認する必要があります。

先行指標か遅行指標か確認する理由は、遅行指標は改善することが構造上難しくKPIに適さない可能性があるからです。

例えば、SaaS事業のカスタマーサクセス部が売上を上げるためには、カスタマーサクセス部だけで処理できない前段階の課題も多く存在します。この場合、売上は遅行指標に当たると考えられます。KPIが先行指標か遅行指標か、また、どの部署の持つべき指標かを確認することが重要です。

カスタマーサクセス部のKPI設計例

カスタマーサクセス部を例に、下記KPIを設定する場合のポイントについてご紹介します。

  • 既存顧客との面談数
  • チャーンレート
  • 顧客満足度

下記では、ポイントの詳細について解説します。

  • 既存顧客との面談数
    • 既存顧客との面談数をKPIとしている場合、顧客との面談数を増やすことが最終的に売上に繋がるロジックが作れていればKPIとして適切です。しかし、面談数を増やすことが売上に繋がるかどうか、数字として表現できない場合はKPIに適しません。
  • チャーンレート
    • チャーンレート改善のため、既存顧客との面談数を増やすことは関係性があります。ただし、「面談数が100件の場合、チャーンレートが何%になるか」「商談数が200件の場合は何%になるか」といった対応関係が分かりにくいかと思います。これは、KPIから一段下げた行動指標として持つべきでしょう。
  • 顧客満足度
    • 顧客満足度を向上させるための取り組みが、どの程度売上に影響を与えるのか、という説明が担保しにくいと思われます。したがって、顧客満足度もKPIにはなりにくいでしょう。

財務会計との関連性を考えた時、KPIになりにくい指標が存在しますが、これらがKPIとして適さないというわけではありません。これらの指標は見るべきではない、という意味ではなく、KPIとして設定する場合、最終的なゴールである売上や財務数値の改善にはなりにくい、ということです。

組織に応じたKPI設計であること

冒頭に教科書通りのKPIで良いと説明しましたが、KPIとそのKPIを持つ部の対応関係は明確にする必要があります。例えば「SaaS KPI」と検索すると、LTVやCAC等といったKPIが検索結果に上がって来るかと思いますが、どのKPIをどの部署が持つべきかは整理が必要です。

CAC(顧客獲得単価)を例にあげてご説明します。

CACはマーケティングにて商談をどのぐらい効率的にセット出来たかという成果と、その商談をセールスがどのぐらい効率的に受注出来たかという成果の掛け算で表されます。ではこのKPIをマーケティングが持つべきなのか、セールスが持つべきなのか、対応関係を明確にすることは難しいです。こうした点の整理を、KPIの設計時は議論する必要があります。

また、KPIは単に数値を追跡するためだけではなく、組織やチームの行動変容を促す役割を果たします。そのため、KPIを設定した場合にどのような行動変容が起こるかを考慮する必要があります。

例えば、カスタマーサクセス部がチャーンレートというKPIを持っている場合、チャーンレートを下げるために、カスタマーサクセス部のメンバーは面談数を増やしたり、オンボーディングの数を増やしたりするアクションをする必要があるでしょう。フィールドセールスのKPIとして受注率を設定した場合、受注率を上げるために商談分析や失注分析を行うことが考えられます。

このように、KPIは行動変容を起こすため、KPIを設定した場合にどのような行動変容が起こるかを考慮し設計する必要があります。

適切な組織に適切な KPI を持たせる

組織の部署ごとに設定されたKPIは、その部署において重要な業績評価指標です。しかし、部署間での優先順位や目標が異なり、組織全体から見ると、全体の売上目標であるMRR(月次継続収益)が伸びないことがあります。

例えば、カスタマーサクセス部はチャーンレート(顧客離脱率)をKPIとして設定しており、この数字を下げるためには、満足度の高い顧客を獲得する必要があります。一方、フィールドセールスは受注数をKPIとして設定しており、お客様がリピートするかどうかを考慮せず受注をする可能性があります。いわゆるセクショナリズムが生まれる状態です。

部署ごとにKPIを追っているにも関わらず、組織全体の目標であるMRRが上がらない場合があります。

事業部の責任者や企画部の責任者は、部署間のバランスを見極め、適切な指標を設定することが求められます。

アンコントローラブルな KPIの存在

KPIを達成するには、前工程の成果に依存することを認識しておきましょう。

具体的な例として、セールスチームのKPIである「受注数」を達成する為には、当然商談を行う必要があります。ですが、その商談の数はマーケティングチームの活動の成果に依存します。また、カスタマーサクセスチームのKPIである「チャーンレート」はセールスが受注するお客様への提案がしっかりできているか、という活動の成果に依存します。

前工程の成果によってKPIが左右される場合、自部門の成果を上げるために自分でコントロールできる事が少ない・小さいと感じてしまうため、各部のモチベーションに影響を与える可能性があります。こうしたKPIの存在を設計時点で把握しておき、前工程と次工程のコミュニケーションが、接続部分のKPIに対する相互のフィードバックを通して活発になるようなオペレーション設計が、必要なのではないでしょうか。

0からKPIを設計する手順

これまでの解説を踏まえ、KPIを0から設計する際には以下のようなアプローチが最適です。

  1. ロジックツリーの作成

サービスに応じたロジックツリーを書くことで、目的となる結果を達成するために必要な行動やプロセスを明確にします。

  1. 重要な指標の選定

ロジックツリーから、1~2つの重要な指標を選び、それをKPIとすることを検討します。選定する指標は、組織の戦略や目標に合わせて設計する必要があります。

  1. さいごに

KPIは具体的かつ測定可能なものである必要があります。KPIが達成されるための目標値を設定し、継続的にモニタリングして改善することが重要です。

以上に基づいてKPIを設計することで、組織の目標達成に向けた効果的な方向性を示すことができます。

成功するKPI管理の事例

成功するための絶対的な方法ではありませんが、効果的に運営されている企業のKPI管理方法をご紹介します。

まず、PDCAサイクルを早めるためのKPIを設定し、モニタリングして、改善策を講じる、このサイクルをいかに早めるかが鍵となります。頻度としては、KPIは週次単位で行って素早くサイクルを回せると良いです。

KPIのみならず、売上の予実も管理し、KPIが伸びている状況であれば売上も伸びているか確認し、整合性が取れているか見直す必要があります。

次に、コストは月次管理になることが多いと思いますが、広告宣伝費は日次で管理できます。人件費や開発研究費は日次で管理が難しいため、月次管理になります。

最後に、フィードフォワードコントロールを行います。フィードフォワードコントロールについては下記にて解説いたします。

フィードフォワードコントロール

予算という数値目標に加えて、予測という概念を導入することをフィードフォワードコントロールと呼びます。

多くの会社が予算を持っていると思いますが、予算は通常期首前に設定されるものであり、半年経った時点では内部環境や外部環境が変化しているため、予算通りの数字が出ない可能性があります。

一般的には、予算と実績を比較することが多いと思いますが、KPI管理においては、予算と予測の両方を管理することが非常に重要であると考えられます。つまり、ここでいう予測とは、現状から導き出される現実的な数値を予測と呼んでいます。

さらに具体的に解説すると、比べる対象が「過去」なのか「未来」なのかという違いです。

実績は過去の結果、予測は未来を予測するものです。予算と過去の実績だけではなく、予算と未来の予測を見て、現状に応じた数値目標を立てることが重要です。予算予測を踏まえて、現在の状況や未来の見通しを考慮して、予算達成の見込みを確実に把握していくことが必要です。

まとめ

  • KPIはシンプルさを追求し、会社やチームのKPIとの繋がりを意識して設計することが重要です。
  • 財務会計と管理会計を融合し、KPIの達成が予算達成と連動する設計が重要です。
  • そのKPI設計により、どのような行動変容が起こるかを考慮し、組織に応じた設計をする必要があります。

KPI設計は、メンバーの行動変容を引き起こしたり、経営のコントロールするため、予測可能性の担保や、会社にとってのバリュードライバーやボトルネックを把握するためにも重要な指標となります。

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この記事の監修者

小野 敦志

株式会社ナレッジラボ
開発本部CPO室 室長
税理士 / 米国公認会計士

日米の会計事務所勤務を経て、Big4税理士法人にて国際税務アドバイザリー業務に従事。2020年7月に株式会社ナレッジラボに入社し、Manageboardのカスタマーサクセス責任者を経て、現在はCPO室にてプロダクトマネジメントに従事。