店舗を存続させる!事業計画立案のポイントと実務

株式会社hacomonoと共催セミナー「店舗を存続させるための事業計画立案のポイントと実務」を開催しました。本記事は、株式会社ナレッジラボ 税理士/中小企業診断士 大道 智之による解説パートのセミナーレポートです。店舗事業を運営されているかた、これから事業をはじめようと思っている方へ、事業を成長させるためのポイントについて解説しております。

「事業が立ち行かなくなる時」とは?

事業が立ち行かなくなる原因は様々ですが、「赤字」や「資金不足」をイメージされるのが一般的です。
ですが、正しくは「赤字」ではなく「資金不足」です。

例えば、毎年1億円の赤字が出ていても、手元に5億円あれば事業を継続できます。しかし、利益が出ていても資金が尽きてしまうと事業を廃止せざるを得ない状況になることがあります。これは一般的に「黒字倒産」と呼ばれます。したがって、事業を継続させるためには、資金繰りの見通しをしっかり把握することが非常に重要です。

資金不足に陥らない為の対策

事業が継続するためには資金不足に陥らない対策として2つの資金調達方法があります。

1.事業活動の利益から資金確保する
1つ目は、事業活動によって生み出される利益を利用して資金を増やす方法です。利益が出ると当然税金が発生します。そのため、キャッシュアウトしてまで節税を実施されるケースがありますが、これまでの経験から納税=一番手元にお金を残す手段であると考えています。納税額は会計事務所が、合法的に一番少なくなるようにコントロールしているので、「税金を払う=手元にお金が残る」というイメージを持って頂きたいと思います。

2.外部からの資金調達
2つ目は、外部からの資金調達です。会社を存続する=資金不足に陥らないため、資金調達という方法があります。外部からの資金調達には大きく2つの方法があります。
・ 金融機関からの調達(借入金)
・国からの調達(補助金・消費税還付)

事業活動の利益から資金確保するポイント

事業活動の利益から資金確保のポイントについて解説します。

まず本業である事業から効率的に資金を確保することが大切です。その際、考え方は2つあります。1つは売上重視の運営、もう1つは利益重視の運営です。ここでは、利益を重視する考え方をお話いたします。

利益を確保するためには、売上を上げるということが手段になることもあります。しかし、必ずしも売上を上げることが利益が最大化するわけではありません。時には、事業規模を縮小してでも、どの事業に投資するのかという投資先をしっかり見極めることが重要です。売上を重視した結果、利益がかなり薄くなってしまうケースもありますので、売上と利益の両面から考えて、利益が最大化する売上設定することがポイントです。

利益の構成

まずは利益の構成を確認していきましょう。

利益を上げるために最初に考えなければいけないのは「売上」アップです。
続いて、「原価」について考えます。原価は、売上を獲得するために直接必要な費用です。例えば、飲食店では食材やドリンクの材料費が含まれます。

また、売上から原価を差し引いた金額を「粗利(売上総利益)」と呼びます。
この粗利が利益を構成する要素の一つです。粗利を紐解いていくと、粗利がマイナスになる場合もあります。その場合は事業をやめる検討も、時と場合によっては必要です。

そして、粗利から経費を差し引いたものが「純利益」となります。
利益を最大化する為には、売上、原価、経費を正確に把握し、事業計画を立案することが重要です。まずは、利益がどういう要素で構成されるのかをご認識いただければと思います。

利益の構成 ~売上~

ここからは、「売上」「原価」「利益」について詳しく解説します。

まず、利益を構成する「売上」について解説します。

売上の一般的な算出方法は、客単価に顧客数を掛ける方法が用いられます。そして、売上を獲得するためには、「認知」「体験」「初回購入」「継続購入」「リピート」のサイクルが重要です。このサイクルはどの事業においても非常に重要であり、課題を常に把握することが必要です。

例えば、「認知」段階において、適切な広告媒体を選択することが重要です。ただし、問い合わせが多いだけで実際の購入には繋がっていない場合、ユーザーに対する魅力や訴求力が不足している可能性があります。

また、「リピート」段階において、入会はしているものの2回以上の利用がない場合には、顧客獲得にかかるコストパフォーマンスや顧客満足度について見直す必要が高まります。以上のような課題を常にモニタリングすることが重要です。

店舗ビジネスにおいて、リピートは非常に重要な要素となります。成功している店舗業者の方々は、多くのリピーターを抱えています。店舗業は商圏がある程度固定されている中で、どれだけリピートを誘発できるかが重要です。

また、リピーターからの口コミは大きな影響力を持っております。その口コミが認知拡大につながることで好循環が生まれることもあります。このサイクルを重視しながら、客単価×顧客数によって売上を拡大していき、更なるお客様数の増加を目指していきましょう。

利益の構成 ~粗利~

次に、「粗利(売上総利益)」について解説します。

粗利率はあらゆるビジネスにとって最重要指標の一つであると考えられます。粗利率は業種によって異なりますが、美容室は85%、カフェレストランは70%、フィットネスは95%〜100%といわれています。

飲食業では原価率が30%と言われております。昨今、材料の高騰などの要因により、単価が上昇したり、量が減少したりする場合があります。これは粗利を維持するための対策です。

一方、美容室やフィットネス施設では、サービス提供のみの場合、ほぼ原価が発生しません。原価が発生しなければ、粗利率は100%に近い数値となるため、フィットネス施設は粗利率が高いサービスと言えます。ただし、物販がある場合は、商品代や仕入れ代などが原価として発生します。

例えば、美容室ではシャンプーやコンディショナーなどが物販として販売されることがあります。フィットネス施設ではプロテインなどが販売されることがあります。このような場合、商品の仕入れ代金が原価となり、粗利率に影響を与えます。

利益の構成 ~利益~

最後に、「利益」について解説します。

利益とは、粗利から経費を差し引いたものです。経費には、人件費・家賃・広告費・その他コストが含まれます。特に、人件費と家賃は経費の中でも割合が多い経費になります。経費について詳しく解説します。

人件費

一般的に、人件費は粗利の60%以内に抑えることが目安とされています。ただし、この目安は比較的高い割合になります。

店舗ビジネスでは、人件費のコントロールが難しいと言われていますが、人件費はコスト負担が大きいためコントロールすることが重要です。適切な人員配置やスケジュール管理を行い、効率的なコントロールを図りましょう。例えば、忙しい時間に社員を配置するといった方法があります。

フィットネスジムの場合、トレーナーを雇用することがあります。トレーナーを業務委託として雇用することで、稼働に応じて費用を調整することができます。このようなコントロールは、人的な手段で行うこともできますが、システムやツールを活用して構築することも一つの方法です。

家賃・宣伝費

家賃や宣伝費も、店舗ビジネスにおいて重要な経費です。立地条件は集客に大きな影響を与えます。しかし、交通の便がよくても家賃が高すぎる場合は、売上を上げないと回収が難しくなります。家賃と集客はバランスを考慮する必要があります。

広告宣伝費については、集客につながる効果の高い媒体を選定することが重要です。ターゲットとする顧客層に合わせてSNSやチラシなどを活用することが必要です。これらにおいては、戦略的な考え方が非常に重要となってきます。

減価償却費

減価償却費は、経費の中でも複雑なものの一つであり注意が必要です。減価償却費は、投資した資産(例えば店舗の内装工事)を何年かけて費用に落としていくかを決めたものです。

一般的には、長期にわたって分割して費用計上されるため、損益とキャッシュフローが一致しないことがあります。これは、支払いが初年度に一括で行われるが、費用計上は数年かけて行うためです。減価償却費があることで、利益が出ているにも関わらずお金が減っていくという現象が生じることがあります。

減価償却費についてもう少し具体的に解説します。例えば、店舗の内装工事の場合、10年〜20年かけて費用計上します。1000万円内装工事にかけた場合は、毎年100万〜80万円、月々8〜5万円が費用計上されます。

ここでは、減価償却費は曲者だということを覚えておいて下さい。 

2.外部からの資金調達のポイント

資金調達の方法として「外部からの資金調達」があります。外部からの資金調達には下記2つの方法がありますので、詳細を解説します。
・ 金融機関からの調達(借入金)
・国からの調達(補助金・消費税還付)

金融機関からの調達(借入金)

金融機関からの資金調達を検討する場合、まずは必要な借入金額を計算しましょう。

計算方法としては、まず店舗運営に必要な経費を把握します。これを基に、必要な売上を逆算する方法があります。

経費の把握

はじめに、店舗運営に必要な経費の計算方法をご紹介します。
経費の主な項目は以下の5つがあります。それぞれについて把握しましょう。

人件費

自身やスタッフの給与基準を設定します。自身の給与は最低限の生活費をカバーする額で計算されることが一般的です。給与を定めた後は、社会保険料や税金も考慮する必要があります。社会保険料は給与の約30%を納めますが、会社と個人で負担を分けるため、給与の15%が会社負担となります。

広告宣伝費

特定のターゲットに認知されるために、どの媒体を使用し、どの頻度で広告宣伝を行うか検討する必要があります。一般的に「ペルソナ」と呼ばれる対象顧客を設定します。最初から完璧な答えを見つけるのは難しいですが、費用対効果を考慮して微調整を行うことが重要です。

ツール/設備利用料(家賃)

店舗運営に必要な項目として、家賃や設備利用料、レジや予約システム、顧客管理システムなどを洗い出します。経費の全体的な感覚を把握するためには、効果的な管理体制を確立することが重要です。テクノロジーを活用し、管理体制を効率化することも検討しましょう。

水道光熱費とその他の経費

水道光熱費、交通費、通信費、携帯代、交際費などがその他の経費として挙げられます。これらの項目は概算で見積もるしかありませんが、経費の全体的な感覚を把握するためには重要な見積もりです。

経費の把握はとても重要です。
なぜなら、店舗運営は初年度から利益を出すことが難しく、黒字を達成することが最初の目標となります。黒字とは、経費<売上である必要があります。したがって、経費の把握は黒字の達成に不可欠な作業です。

売上の把握

次に、売上も重要な目標となります。

売上の構成要素には、客単価や利用顧客数などが含まれています。これらを具体的に設定することで、見込み売上を算出することができます。

客単価を向上させる方法はいくつかあります。例えば、オプションやメニューの追加、物販の導入など、さまざまな戦略を考えることができます。また、顧客数を増やすためには、新規顧客の獲得やリピート顧客の増加、魅力的な施策の提供など、継続的な顧客獲得策を実施することが重要です。安定した顧客数を確保することで、将来の収益性を確保することができます。

金融機関からの借り入れでは、返済義務があるため、現実的な売上の数字を金融機関に説明する必要があります。具体的な数値として、新規顧客数やリピート顧客数などを示すことが重要です。また、事業計画の策定においても、利上げを詳細に分析する作業が重要です。

少しでも実績があれば、借り入れ時に実績をもとに数字を算出することで、金融機関の理解を得やすくなります。最初は具体的な数値を出すことが難しい場合でも、まずは客単価を設定し、現実的かつ保守的な数字で来店客数を試算することが重要です。

例えば、「SNS広告をこれだけ打ち出した時、1週間の流入人数が何名いました。」といったデータを実績として、月々の入会数を推察します。このような実績データを活用しながら、新規顧客数やリピート顧客数を試算することが重要です。

借入額の算出

最後に、経費と売上を把握したら、必要な借入額を計算する必要があります。

まずは、初期の設備投資額が必要な資金となります。そして、毎月の赤字から単月で黒字になるまでの累計の赤字をイメージし、それから創業時の自己資金を差し引いた金額が最低借入額の目安になります。ただし、ギリギリの借入ではなく、余裕を持った借入をすることが重要です。

例えば、初期設備投資額が300万円で、毎月30万円の赤字が出ます。半年後には黒字化する想定で考えると、6ヶ月分の180万円の赤字に初期設備投資額の300万円を足し、その結果として約480万円が借入の目安となります。創業時の自己資本を100万円の場合は、380万円が借入の目安となります。

借入の上限については、あくまで参考ですが、安定的に黒字化する年度の利益額を考慮することができます。年間利益が200万円であれば、その利益額の10年分である2000万円が借入の上限となるでしょう。

予期しない状況に備えて、事前に金融機関との関係を築いておくことが重要です。金融機関との信頼関係を構築し、返済実績を積んでおけば、追加の融資を受けやすくなる可能性があります。将来どのような事態に直面するかはわかりませんので、できるだけ金融機関との関係を築いておくことが望ましいでしょう。

国からの調達

資金調達の方法として「国からの調達(補助金・消費税還付)」があります。

補助金による調達のポイント

多種多様な補助金が存在するため、補助金専門サイトなどを活用して調べてみてください。ただし、補助金をあてにして事業を行うことはあまりおすすめできません。補助金は先に支出が発生し、その一部を補填する制度です。結果的に補助金をもらうために資金が減ることもあります。補助金がなくなったとしても事業を継続できるかどうかで判断すると良いでしょう。

消費税の還付のポイント

二つ目は、消費税の還付をうけることです。商品やサービスを販売する際に本体の代金に10%の消費税を上乗せした額を頂きます。その後、仕入れた商品や備品を仕入れた際支払った消費税を差し引いて納税する仕組みです

特に店舗業では、最初に大きな設備投資が必要となります。受け取った消費税から、支払った設備投資に関わる消費税の額が多くなるケースがよくあります。そのため、数百万円の還付金が得られることもありますので、消費税の還付も検討してください。

実際に、当社のお客様でも過去に還付を受ける権利があったにもかかわらず、手続きをしていなかったケースがありました。ただし、消費税の還付を受けるためには税務署への届け出が必要であり、一定の制約もありますので、税理士と相談して戦略的に進めることをおすすめします。

まとめ

事業を継続させるためには、資金繰りを重視した経営を意識してください。売上高よりもコストや費用の最適化を考え、どのように利益を最大化するかを考えることが大切です。さらに、借り入れについては、必要な時に十分な資金を調達し、事業計画を立てることで、効率的かつ安定的な経営ができます。経費を洗い出し、売上を逆算することで、具体的な数字に基づいた計画が立てられ、事業の成長につながることが期待できます。是非参考にしてみてください。

この記事の監修者

Omichi Tomoyuki

株式会社ナレッジラボ
コンサルティング副本部長
税理士 /中小企業診断士

大手税理士法人で中堅・大企業の税務顧問、事業承継案件の実務に従事。
現在は、経営支援/アカウンティング部門の責任者として「経営に必要な数字を、経営者の手元に」届けるための仕組みづくり、数字をベースとした経営改善サービスを提供している。
将来の数字を経営者と共有し、ワクワクする体験を提供する税理士/中小企業診断士として、多くの中小企業をサポートしている。